ビキニ環礁シンジケート

書くことが楽しい

夢の中のぼくの拡大する街

「涙」

  最近にわかに涙もろくなった気がする。つーか涙を流すタイミングや理由がガラッと変わってしまった。感動した時、悔しい時、悲しい時、そんな折に涙を流すことへの抵抗感がどんどんと薄れていってる気がする。女の子って誰かに怒られた時とかに、泣きたいわけじゃないのに勝手に涙が溢れてくる、みたいなことを言うじゃん。今ならそんな心のバランスの取り方もなんとなく理解できる。

  この間、朝まで仕事の人と飲んでいたら突然レイトショーへ行くことになって、その時観た映画は特別泣ける内容ではなかったんだけど、その人は気持ちいいくらい号泣していて、まあお酒が入ってたこともあるんだろうけど、映画が終わったあとに、すっきりした、と恥ずかしそうにしてて、その時に、ああこれは自慰なんだ、って腑に落ちた。

  たった数cc分の体液が自分の精神状態に大きく作用するってことは男なら誰でも知ってることで、感情的になった時のその効用もよく解ってる。なるほど。そういうことだったんだ。したら俺も恥ずかしがらずにちゃんと涙を流してこればよかった。汗や精液みたいにスポーツと割り切って、気持ち良さのためだけに涙を流してきたかった。

  男が泣いちゃうなんてそんな恥ずかしいことないっしょー、なんて思ってたけど、心のバランスの取り方を意図的に選べるのなら、涙を流すって方法はかなり、なんというかかわいらしい方だし、まだ場所を選ばないのかもしんない。上司に怒られてる時にスクワットやオナニーなんて始めるわけにはいかないんだし。


「ゴミ箱」
  むかしむかしあるところに心優しい男の子が住んでいました。人々は悔しいことや悲しいことが起こると、いつもその男の子に話を聴いてもらいに行って、その度に男の子は自分のことのように心を痛めて、いつまでも一緒に涙を流しました。

  すると人々は落ち着きを取り戻して、男の子に「ありがとう。きみは本当に優しい人だね。また悔しいことや悲しいことが起こったら必ずここに来るよ」と言って、晴れやかな気分で帰っていきます。人々は男の子に話を聞いてもらうことで相手を許すことができましたし、落ち込んでいてもすぐに立ち直ることができました。男の子のおかげでみんなは幸せに暮らすことができましたし、それは男の子にとっても幸せなことでした。毎日毎日、誰かが男の子のもとを訪れていました。

  ですがそんな日々がずっと続いていく中で、男の子はだんだんと悲しさに慣れていってしまい、人々の話を聞いても自分のことのように心を傷めることも、そして一緒に涙を流してあげることもできなくなりました。そんな男の子に対して人々は「きみはなんて酷い人なんだ。二度とここには来ない」と心無い言葉を投げかけては帰っていきます。

  ついに誰も男の子のもとへ訪れなくなり、行き場のない怒りや悲しみはいつまでも人々の心の中に残り続けました。初めて誰も訪ねてこなかった静かな夜、男の子は独りぼっちで泣きました。


「かわいさ」
  かわいいってことはかなり手強い。かわいさは指摘される度、自覚する度に高まっていくものらしくて、一旦かわいくなってしまうともう簡単には手が付けらんない。

  俺はよく人にかわいいねって言うんだけど、この間、かわいい職場の人が普段と違うふうに髪をくくってたから、いつもみたいに何気なくかわいいですねって言ったら、もっと言ってください、って笑って返されて、めちゃくちゃびっくりしてそのまま飛び上がって天井に突き刺さった。自分が今何を言われたのか全く判らなくて、ようやく理解した時には感動すら覚えた。

  ああ、かわいい人はかわいいと言われ慣れることで、よりかわいくなってしまうのか、と。

  他にも、たくさんお金掛けてるからですよ、と冗談っぽく返してきた人もいた。こういう気持ちの良い返しをされるたびに、俺はそれをこっそりとメモをして、秘蔵のコレクションに加える。そしてその洗練された返答に至るまでの道のりを夢想する。今までに何百回、何千回もかわいいと言われ続けて、その度に彼女らのかわいさは研磨されていって、異性から求められ続けてきた人だけが醸し出せるコミュニケーション論の匂いがまた別の男を婀娜やかに訴求する。

  切った髪を褒めた時に、ノイズさんに褒めて欲しくて切ったんです、と言ってきた人がいた。目眩がする。何万回褒められたらこんな台詞がさらっと出てくるようになるんだ。仕草や言葉一つでその人が今までにどれだけモテて、言い寄られてきて、下心の放射性に歪められたかが、なんとなく伝わってしまう。それがたまらなく楽しい。

  俺はよく人にかわいいって言う。少しでも相手のかわいさに寄与できるように。

  ところでこの人と一緒に営業先へ行ったことがあって、なかなかまとまらなかった案件をたまたま俺が無事にまとめられてさ、その帰りに、ありがとうございました!  すっごく格好良かったです!  って言われたんだけど、俺、その時思わず、ヌッ、って言っちゃった。ヌッ、って、何?

「彼女」

 彼女について書いてほしいと言われたので書きます。ここではミヤタっつー仮名で何度か登場してるんだけど、杏仁豆腐とカレーと肉とすみっコぐらしが大好きな人です。

haine.hatenablog.jp

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 彼女ってすごくイカしてるの。去年の年末、ここには書いてなかったんだけど白川郷へ行って、泊まったホテルに朝食バイキングがついててさ。ミヤタそこで、カレーの中にスクランブルエッグとソーセージを入れて席に戻ってきたんだけど、俺、すげー嫉妬した。こいつは見てる景色が違うんだ、って。なんか普通バイキングって、自分の好きな食べ物を山盛りもってくるか、こう、きれいに盛り付けて写真とか取るパターンのどっちかじゃん。

 女の子とかって特に、しかも彼氏の前だよ、彩りとか考えてちょっとずつお皿に盛ってさ、どうしても唐揚げとかが食べたいときは、彼氏のお皿から「一個も~らいっ!♪」みたいな感じで横取りするもんじゃん。

 じゃなくてたとえばサバサバ系のさ、あたし中身おっさんだからぁ、みたいな子とかなら、自分の好きなものを好きなだけとってきたりするだろうけど、いずれにしてもバイキングの楽しみ方ってそれくらいのもんじゃん。メニューの中から選ぶじゃん。

 でもミヤタは違うんだよね。ココイチ。バイキングをココイチと捉えてる。カレー以外のおかずをトッピングと思ってて、しかもなんか、今日の私はとことん冴えてますヮ、みたいな顔でちらちら俺の様子を伺ってくる。俺もミヤタのそのクリエイティビティに当てられて、羨望の目を向けながらミヤタすげーミヤタすげーって思う。

 ならミヤタも満足げにエッグソーセージカレーをぺろりと平らげて、おかわりしてきます、つって席を立ってさ、したっけ、おいおいミヤタ、次は一体どんな魔法を見せてくれるんだ、クリエイティビティを発揮してくれるんだ、って俺までドキドキしちゃって、なんか自分のお皿に乗った何の面白みもない食べ物たちが急に恥ずかしくなって、だから急いで食べ終えて待ってたんだけど、ヨーグルトの上にイチゴジャムでサンタクロースの絵を描いたミヤタが戻ってきて、見てー! ちょっと早いけどメリークリスマスー!  って、そのままカバンからプレゼントを取り出してくれた。俺はまた羨望の眼差しでミヤタすげーミヤタすげーってなって、それをメモして、秘蔵のコレクションに加える。

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「恋愛相談」

 はじめまして。いつも楽しくブログを拝見しています。突然ですが、私もノイズさんと同じように半年くらい片思いをしている人が居ます。
  ですがここ最近は倦怠期というか気持ちが落ち着いてきて、好きという思いが急速にしぼんでいっているような気がします。知り合いから大丈夫だよ頑張ろうと励まされても「どうせ無理だし」「無責任にそんなこと言われても」と腹が立ってしまい自己嫌悪に陥ります。
  ノイズさんはどのようにして好きという気持ちのモチベーションを保っているのでしょうか?やはりノイズさんにもテンションの波などはあるのですか?
長文失礼しました。次の更新をいつも楽しみにしています。ノイズさんの片思いがうまくいきますよう陰ながら応援しています。

 ブログに載せてもいいということで真面目に答えますけど、普通に諦められるなら諦めた方がいいと思いますよ。俺の話だとモチベーションを保つための努力みたいなのは一切ない。むしろ、いつ片思いをやめられんだろうね、って毎月のように言ってる。長期間の片思いって、たぶん、迷惑そのものだし。

  正直、この相談を読んで、あの、悩んでる人にこんなこと言うのはあれなんだけど、それって最高じゃん、って思っちゃった。特に喧嘩したとか幻滅するような何かがあったとかじゃないのに、好きという気持ちがだんだんとなくなってきたんでしょ。それってかなり理想に近いパターンじゃない?

  だって考えてみて欲しいんだけど、それって見方を変えれば「この人のこと好きかも……」と気付いてドキドキしてたさ、恋の一番最初の時と全く同じ状況にあんだよ。仲良しと好きの狭間で悩んでんでしょ。一番楽しいとこじゃん。これって恋のトロの部分じゃない? かーーー羨ましいーーーー。大将! トロもう一貫!

  ほら、俺の好きな人ってマジで最高だからさ、俺が片思いしてても内心はどうかしらないけど、いつも通り、そりゃもう憎いくらいにいつも通り接してくれるんだけど、しかもそれももう一年になんの、こんなのってほんとレアケースなんじゃないかな。普通は疎遠になるか不可逆的な関係になって終わるでしょ、セフレとかね。ほんと早いうちにやめた方がいい。片思いより友達としての方がはるかに楽しくて有意義な時間を共有できると思うし。

  片思いについて不肖な俺から言えることはあまりないんだけども、一つだけ、知り合いが何の根拠もなく応援してくれたり励ましてくれるのは、あなたの事を思っての百パーセントの善意なんだから、すべてが片付いたときには許して感謝しておやり、ということ。その人たちはおそらく、好きな人よりもあなたに寄り添ってくれている人たちだしね。

 あと、これは本題とは関係ないんだけど、急に恋愛相談を送ってこられるとびっくりするから、マジで控えてほしい。最初、嫌味かと思ったもん。落ち着いてからでいいから自分の書いた最後の一文を読み返してほしいんだけど、人には「腹が立つ」とか言う割には自分も同じ事やんだな、っつー感じだよ。なあ。

  あ、なんか腹立ってきたわ。冒頭で「諦めた方がいいです」みたいなこと言ってたけど気が変わった。お前も果てまで来い。絶対に途中で投げ出すなよ。失敗しろ。いいか、人に意見をもらってうまく立ち回ろうなんて二度と考えるなって。俺もしたんだからお前も同じ失敗をしろよ。それがフェアってもんでしょ?

  な。頼む。頼みますわ。なあ凛花。ごめんな名前出しちゃって。けど俺悲しいんだ。凜花が賢く振舞って、器用に生きていく姿なんて見たくねえんだ。なあ凛花。ズルすんなよ。それはズルだよ。俺と同じ過ちをそっくりそのままなぞれって。頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む。

  好きな人に恋愛相談して他人事みたいにアドバイスされる沼で、そこの泥をすすって生きようや。俺の言ってることわかる?  伝わってるか?  なあ凛花。俺は今、お前に言ってるんだぞ。つまりさ、自分の名前のLINEスタンプを好きな人にプレゼントして、それを一度も使ってもらえないっつー経験をしてからまた相談に来てくれ、ってことを言いてえの。好きな人に「凛花に送る専用スタンプ」をプレゼントして、それを完全に無視されてからまたここに来い。そん時は、俺、すげー優しいから。